青空が抜けるように広がっている。あのひととさよならをしたあの日とは大違いだ。あの日、泣き腫らしたように赤く染まっていた空は今、青く青く冴え渡って俺を押し潰す。


「さよならしましょう、」そう言ったのは、俺が臆病だったからだ。怖かった。愛されないことが怖かった。いくら愛しても報われないことが怖かった。ずっと片想いでいい、そう思ったからあのひとの隣にいたはずなのに、いつのまにか俺は、当たり前のように見返りを期待していた。そして、それが期待出来ないとなると急に怖くなったんだ。俺は臆病だった。あのひとが嘘などつけないことを、俺は誰よりしっていたはずなのに。



あの日、踏切の手前で立ち止まり「さよなら」を言った俺に、あのひとは何も言いはしなかった。ただ、黙って俺の瞳を見つめ、「わかった」と頷いた、ただそれだけだった。俺はそれをすこし淋しく感じて、引き止めてはくれないんだなとすこしがっかりした。最後のときには、もうすこし何かあるんじゃないかと、それを俺は期待していた。そのときの俺は、彼を引き止める術をほかにしらなかったのだ。今にして思えば、もっとほかにも色々と術はあった気がする。たとえばもっと正直に、「愛して欲しい」というとかだ。
けれどそのときの俺にはそんなふうに彼を引き止めることは出来なかった。もしかしたら言っても引き止めることは出来なかったのかもしれない。どちらにせよ過ぎたことだ。そんなふうに後悔したって仕様がない。俺は彼をうしなった。それはどうやったって変わらない。



俺はあの日から一度も彼に会っていない。学校に来ても、すれちがうことさえなかった。学年も違う俺たちが、お互いに見かけることさえないのは、思えば当然のことだった。そもそものきっかけは部活だった。もう3年生の彼が部活に出て来なければ、会う回数もめっきり減る。そんな当たり前のことに、俺は今まで気付かなかった。俺たちの関わりは切っても切り離せないようなものなんだと、ずっとかんちがいしていた。



「さよならしましょう。」そう言ったのは俺のほうだった、なのに俺は今でもあのひとのことで胸がいっぱいだ。あのひとのことを考えている、何をしてても。頭上にひろがる青い空すら、あのひとと繋がって俺の心を刺す。あのひとに会いたい。会ってもう一度話をしたい。あのひとに会いたい、もう一度。



だけど一度発した言葉は消せない。「さよなら」は消えない。どんなに月日が流れても。あの日の俺もそれをわかっていた。だからこそさよならを言ったのだ。かけがえのないひとに、お別れの言葉を。



ああ、どうかどうか、この気持ちがいつかうつくしい思い出になりますように。痛みが昇華されて始めて、俺はあなたに会いに行ける。そのときこの記憶が、あなたにとってもうつくしい思い出となっていますように。俺にすこしは傷付いてくれたらいい、そんなふうにずっと俺は思っていたけれど、今俺はあなたがすこしも傷付いていなければいいと思っている。ただ、あなたをつくるうつくしい過去になれたらいい。あなたが好きだ。とても。この愛しい想いだけをたずさえて、いつか。













20090617