「いますぐ来てよ」と呼び出すと、誰が、とかぜってえイヤだ、とかなんとか文句を言いながらも、キミはおれが指定した場所で待っていてくれた。「来てくれたんだー」と大げさに喜んで抱きつくと、「うざい」と言ってしっしっとされる。酷い。「で?」キミは俺のほうを見ずに言う。すかさずおれは「なぐさめてよ」と言う。するとキミはとても嫌そうな顔をしながらも、「ウチはダメだぞ。ババアがいるからな」と言った。
ねえあくつ、本当のことを教えてあげる。彼女に振られたのはキミのせいだ。いつもいつもオレが、キミのことばっかり考えてたからだ。「千石くんはわたしを見てない」。あたりまえだ、だってオレがいつも見ていたのはあくつだもの。あくつのいつでもすっと伸びた背中、時間をかけてセットした髪、恰好つけるためだけに吸ってるまずい煙草、自分ひとりでいいんだと言いたげなその言葉、うらはらな態度。ぜんぶぜんぶ好きだ。とても好き。だけどキミにはぜったい言わない。言えるわけない。だって言った瞬間あくつはおれから離れてしまうんでしょ?わかってるよ。
だからおれは必死になってあくつ以外の恋人をつくるんだ。あくつ以外にたいせつなひとをつくる。おれにはほかにたいせつなひとがいるんだよって、必死になってあくつに伝える。見せ付ける。そうしないとおれは、おれにはあくつを繋ぎとめられないから。
くちびるを押し付けたら、あくつの舌がとても熱くて泣きそうになった。
「泣いてんのかよ」とあくつが言うから、「うん、あくつのせいだよ」と答えた。「意味わからねえ」と言うそのくちびるに噛み付いて、「わかってよ」と言う。でもわからなくていい。こんなにキミが好きだなんて、たとえ死んでも教えてやらない。
20090724